ZIPANG-3 TOKIO 2020~全国の姥神像行脚(その7)~出羽三山「月山の金姥とは」・・・【寄稿文】 廣谷知行

はじめに 記事をお届けするに当たり、先の北海道における地震災害、関西地方ならびに中国四国・九州地方における大雨・地震災害で未だ行方不明、並びに亡くなられた皆様のご冥福をお祈りするとともに、被災された全ての方々に心よりお見舞い申し上げます。


姥神とは

姥神の定義の説明の前にまず、奪衣婆の説明をさせていただきたい。

奪衣婆とは、死後にあの世へ渡るための三途の川の岸辺にいて、亡者の衣を脱がせる存在である。なぜ脱がせるのかと言うと、その衣を衣領樹(えりょうじゅ)と呼ばれる木の枝にかけるためである。そうすると生前の罪の大きい者は枝が大きく下がり、小さい者はほとんど動かない。亡者の罪はその衣に重さとなって染み込んでいることになる。衣領樹は罪を量るはかりであり、それを審査するのが奪衣婆である。


月山頂上の神社と鳥海山を望む


山形県の月山

山形県の月山は、湯殿山、羽黒山と合わせ、出羽三山として有名であり、また、日本100名山にも選定されています。標高は1984m、本地仏は阿弥陀如来です。頂上には月山神社があり、天気が好ければ庄内平野と日本海、鳥海山が綺麗に見渡せる眺めを楽しめます。

前回は湯殿山の姥神像を紹介しましたが、今回は同じ出羽三山である月山周辺の姥神像をご紹介します。

頂上に雪を頂く「月山」の雄大な眺め


本道寺の姥神像

月山への登拝口は、かつて寺院や宿坊のある本道寺の本道寺口、日月寺の岩根沢、大日寺の大井沢口、阿吽院の肘折口、注連寺の七五三掛口、大日坊の大網口、羽黒山の荒沢(羽黒)口、照光寺の川代口の八つがあり、これを八方七口と呼んでいました。

本道寺旧山門脇の姥神像

この中で村山地方側にある本道寺口には現在本道寺湯殿山神社があります。ここから国道112号線をはさんで向かい側の本道寺集落に降りる階段があり、その先に湯殿山の額が入った旧山門が残されています。その脇に、廃仏毀釈のためでしょうか首の無い姥神像が祀られています。

本道寺からの登山道途中にある姥神像(左から2番目、一番左が「祖母神」が刻まれた像)

本道寺途中の姥神(アップ)


また、この本道寺から月山山頂への登山道途中、高清水通りにも姥神像が祀られています。この姥神像向かって左側にあるものが、ほとんど削れていて原型はよくわかりませんが、裏に「祖母神」、「享保六」(1722年)の文字が見えることから、これも姥神像だった可能性が高いと思われます。また、そうだとすれば、山形、村山地方で江戸中期には、姥神像を山中に祀る習慣がすでにあったことが伺えます。

「山形の奪衣婆」よりえびすや旅館の姥神像


このほか、月山の麓にある志津温泉のえびすや旅館内に祀られているものは、この本道寺のものと良く似ています。この姥神像は、装束場のやや下側、石跳川登山道の途中にあった姥沢小屋に祀られていたものを下ろしたものだとのことです。


岩根沢三山神社入り口の姥神像


岩根沢の姥神像


 これも村山地方になりますが、岩根沢口の岩根沢三山神社入り口に姥神像が祀られています。ここはもともと日月寺があった場所です。この寺の由来は1387年と古く、国の重要文化財としても指定され、敷地建物共々かなりの規模があります。台所には等身大の大黒天と恵比寿様の木像が祀られています。

 この姥神像の背には「元治元」(元治元年、1864年)の文字が見えます。比較的新しいものであり、出羽三山ゆかりの場所に限らず様々な場所に姥神像が祀られた時期でもありますので、月山や湯殿山信仰に関連して祀られたものかどうかはわかりません。


石段に歴史を感じる「月山の金姥」

羽黒小関坊にある青銅の姥神像


月山の金姥


月山の手前(村山側から見て)に姥ヶ岳があり、この山すそ、湯殿山へのコースと月山へ向かうコースの分岐点に金姥と呼ばれる場所があります。ここは、鶴岡市羽黒町の宿坊、小関坊にある唐金(青銅)製の姥神像を運んで祀り、安産の神様として信仰されていたとのことです。毎年夏前に運び、秋に下ろしていたそうですが、現在は運ばれてはいません。

このような信仰形態は村山地方には見られないこと、庄内側ではあまり石像の姥神が多くないことから、以前は同じ山形でも村山側と庄内側は、藩や国が違っていたため、姥神信仰の形態も違っていた可能性があります。ただし、どちら側でも湯殿山や月山に関連した姥神信仰があったことは間違いないと言えます。


参考文献
鹿間廣治「奪衣婆 山形のうば神」、東北出版企画、二〇一三年
渡辺幸任「出羽三山絵日記」、杏林堂、二〇〇六年。



続く・・・



寄稿文

廣谷知行(ひろたに ともゆき)
姥神信仰研究家



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ZIPANG-3 TOKIO 2020

2020年東京でオリンピック・パラリンピックが開催されます。この機会に、世界の人々にあまり知られていない日本の精神文化と国土の美しさについて再発見へのお手伝いができればと思います。 風土、四季折々の自然、衣食住文化の美、神社仏閣、祭礼、伝統芸能、風習、匠の技の美、世界遺産、日本遺産、国宝等サイトを通じて平和な国、不思議な国、ZIPANG 日本への関心がより深かまるならば、私が密かに望むところです。

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