はじめに 記事をお届けするに当たり、このたびの関東地域を中心とする暴風雨により被災された皆様へ心よりお見舞い申し上げます。
世界かんがい施設遺産登録施設(2019年)
国際かんがい排水委員会(ICID)は、令和元年9月4日(水曜日)にインドネシア・バリで開催された第70回国際執行理事会において、ICID日本国内委員会が世界かんがい施設遺産候補として申請した4施設を世界かんがい施設遺産として登録することを決定しました。
世界かんがい施設遺産とは
• 世界かんがい施設遺産(World Heritage Irrigation Structures)は、かんがいの歴
史・発展を明らかにし、理解醸成を図るとともに、かんがい施設の適切な保全に資
するために、歴史的なかんがい施設を国際かんがい排水委員会(ICID)が認定・
登録する制度です。
• この目的は登録により、かんがい施設の持続的な活用・保全方法の蓄積、研究者・一般市民
への教育機会の提供、かんがい施設の維持管理に関する意識向上に寄与すると
ともに、かんがい施設を核とした地域づくりに活用していくことです。
• 世界かんがい施設遺産の対象施設・登録基準
〇 建設から100年以上経過(供用廃止施設も対象)
〇 次のいずれかの施設
①ダム(かんがいが主目的) ②ため池等の貯水施設
③堰、分水施設 ④水路 ⑤排水施設 ⑥古い水車 など
〇 9項目の基準のうち1つ以上満たす施設
【9項目のうち主な基準】
①かんがい農業の画期的な発展、食料増産、農家の経済状況改善に資するもの
②構想、設計、施工、規模等が当時としては先進的なもの、卓越した技術であった
もの
③設計、建設における環境配慮の模範となるもの 等
国際かんがい排水委員会の審査結果について
世界かんがい施設遺産は、かんがいの歴史・発展を明らかにし、理解醸成を図るとともに、かんがい施設の適切な保全に資するために、歴史的なかんがい施設を国際かんがい排水委員会(以下「ICID」という)が認定・登録する制度であり、平成26年度に創設されました。
世界かんがい施設遺産の登録施設(2018年迄)
事例 七ヶ用水※¹について
※1 上図 世界かんがい施設遺産の登録施設(2018年迄)の全国分布図 no.17は石川県の七ヶ用水
七ヶ用水の歴史
七ヶ用水の誕生は、江戸時代末期に枝権兵衛、小山良左衛門によって行われた、富樫用水の改修がきっかけと言われています。その頃の取水口は、七つの用水がそれぞれ手取川に堰を築き取水していましたが、夏の日照りが続くと水不足となり、また洪水のたびに堰や取入口が壊されるといった被害に、農民たちは大変困っていました。富樫用水の改修は1年中水がたまっている安久涛ヶ淵(あくどがふち)、現在の白山市白山町から300mのトンネルで取水するというもので、明治2年に完成しました。
明治31年、明治の大改修といわれた合口事業に着手しました。合口事業は手取川の氾濫を防ぎ、安定した水量を確保するため、七つの用水の取水口を合併するというものでした。この明治の大改修は枝権兵衛らが行った事業が参考となり、手取川の安久涛ヶ淵に大水門、3つの隧道、7.8kmの幹線水路が整備されました。
明治36年、事業の完成と同時に手取川七ヶ用水普通水利組合が組織され、現在の七ヶ用水が誕生しました。
平成18年2月には、疏水百選に選定されています。また、平成26年9月には、「世界かんがい施設遺産」に登録されました。
給水口通水式(明治36年)
現在の給水口
当時の資料
当時の貴重な資料のうち代表的なものを掲載します。
通水式招待状案の決裁文書
資料の現代語訳
三好第二課長からの書面もありますので、あらかじめ左の文案を作成して、県庁ヘ協議してもよろしいでしょうか。
但し、明日三好課長の来庁があれは、本文は県庁ヘ送りません。
謹啓 ますます御清祥のこと、お慶び申し上げます。さて、本月24日午前第11時に、石川郡鶴来町十八河原にて、手取川七ケ用水通水式を挙行致しますので、万障お繰り合わせの上おいでになり、ご臨席くだされたく、ご招待申し上げます。
匆々敬具 明治36年5月 日
石川県知事村上義雄
追伸、当日はこの招待状をご持参下され、受付係ヘお出し下さい。また、準備の都合もございますので、もし、支障がございますならば、来る21日までに鶴来町七ケ用水出張事務所あて、ご連絡ください。
水利組合管理者から石川県土木技師への感謝状
資料の現代語訳
手取川は県下最大一番の河流であり、更に水勢は激しく、あたかも瀑布のようである。このようであるので、秋長雨洪水になれば、たちまち堤防は決壊し、田圃を流亡し、人畜に害を及ぼして財貨が流れ、その惨害は実に言葉にあらわしがたいものである。更に石川・能美両郡の過半は、この川の水に田園の灌漑を頼っているので、各所に給水口を開いて、堰堤を設けている。このため水害が起これば一層被害が大きくなっている。県当局は、これを見て、先に各用水給水口合併の工事を計画し、明治31年に工事を始めた。この日まず貴方がおいでになり、本工事の設計及びその監督の任務を受けられ、以来年を経ること6年、この5月、工事は全て竣工したので、水を全溝に通し、給水も良くなり、心配していたことは無くなった。よって今日の盛挙を目の当たりにし、本組合員は貴方の苦心経営の致す所であると信じ、その労は大きかったと考える。ここに本官は、組合会の議決を表し、記念として銀盃一組を贈呈して、いささかその労に報わんと思う。品物は粗末であり、更にわずかではあるが、その志を採り、これを受納いただきますことを願います。
石川県石川郡・能美郡手取川七ケ用水普通水利組合管理者
明治36年5月24日 石川県石川郡長 正七位柴田是
石川県工師
並河常次郎殿
水利組合長の通水式祝詞
資料の現代語訳
祝詞
手取川七個用水合併工事落成し、本日、知事閣下の親しくご臨席により、この式を挙行します。顧みれば能美・石川両郡の田園は、ここから給水の恩恵をうけて、灌漑の便を得る土地は、実に6576町4反5畝23歩(約65平方km)であります。
従来からの引水方法は、手取川に七個の水閘と堰堤を設けて個々別々でありました。これではその経費は巨額となり、配水もまた均衡を保ってはいませんでした。なので干ばつで渇水の時には、やもすれば紛争を生じるので、常に関係町村が憂慮していました。加えて長雨で水が溜まれば、たちまち川は増水してあふれ、激流は堤防を砕き波は范濫して邸宅・田園を流亡し、人や家畜・家財が漂流します。このことは35年に必ず1回は有りました。その悲惨な状況は、見るに忍ばざるものであります。そのため今、時の県知事がこの災害を除こうとし、河川改修の止む終えざるをおしはかり、まずはその準備として七個の用水給水道ノ合併を計画し、県会の協賛を求めて、ついに明治31年にその工事を始めました。以来、年を経ること6年、工費はおおよそ6万余円かかりました。実に県内未曾有の大工事であります。今やその成功により、水を通して配水は均一となり、灌漑の利便は、また先の憂慮が無くなったというだけではなく、用水に要する経費軽減も多大であります。今後、本組合がこの合併により受ける幸福はどれだけのものでありましょうか。だから決して祝賀せずにはおられません。不肖私は石川郡長の職を被り、この管理の任にあたり、未熟な私では力およびませんが、誠意を持ってその保管の責務をつくして、そして将来の福祉の増進となることを願います。この盛典を大変歓こび、いささかではございますが、蕪辞ながら祝辞とします。
世界かんがい施設遺産候補4施設を登録決定!(2019年)
ICID本部※に設置された審査委員会において、各国のICID国内委員会(日本事務局:農村振興局整備部設計課)から申請があった候補施設の審査が行われ、令和元年9月4日(水曜日)、インドネシア・バリで開催された第70回ICID国際執行理事会において、世界かんがい施設遺産として登録されることが決定しました。
※ICID(International Commission on Irrigation and Drainage)は、 かんがい排水にかかる科学的・技術的知見により、食料や繊維 の供給を世界規模で強化することを目的として、1950年に設立 された自発的非営利・非政府国際機関。日本は1951年に加盟。 • 78の国・地域が加盟し、各国は国内委員会を設置。
このことにより、ICID日本国内委員会※が候補施設として申請した以下の4施設が世界かんがい施設遺産として登録されます。
(注) 国際かんがい排水委員会 ICID:International Commission on Irrigation and Drainageの略、
本部所在地:インド・ニューデリー
※日本国内委員会
学術経験者等をメンバーとし、 かんがい・排水・洪水等に関する知見
の情報の収集・発信
委 員:佐藤洋平委員長(東京大学名誉教授)等20名
事務局:農林水産省農村振興局整備部設計課
世界かんがい施設遺産登録4施設(2019年)
1.十石堀(じゅっこくぼり)(茨城県北茨城市)
2.見沼代用水(みぬまだいようすい)(埼玉県行田市、羽生市、加須市、鴻巣市、久喜市、桶川市、上尾市、蓮田市、白岡市、春日部市、さいたま市、越谷市、川口市、草加市、戸田市、北足立郡伊奈町、南埼玉郡宮代町)
3.倉安川・百間川かんがい排水施設群(くらやすがわ・ひゃっけんがわかんがはいすいしせつぐん)(岡山県岡山市)
4.菊池のかんがい用水群(きくちのかんがいようすいぐん)(熊本県菊池市)
続く・・・
鎹八咫烏 記
伊勢「斎宮」明和町観光大使
協力(敬称略)
農林水産省 〒100-8950 東京都千代田区霞が関1-2-1電話:03-3502-8111(代表)
(農村振興局整備部設計課海外土地改良技術室)
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